01-3. 採用ブランディングを組織文化として根付かせるために

これまで、採用ブランディングを成功させるための具体的な5つのステップを見てきました。自社の「魅力」を発掘し、採用ターゲットと「コンセプト」を明確にし、魅力的な「コンテンツ」を作成・整備し、最適な「チャネル」でターゲットに届け、そして効果を測定し「継続的に」改善していく。これらのステップを愚直に実行することは、中小企業採用力強化のために極めて重要です。

しかし、これらの活動を単なる人事部門のタスクとして片付けてしまうだけでは、採用ブランディングのポテンシャルを最大限に引き出すことはできません。採用ブランディングは、突き詰めれば「企業そのものの魅力」を磨き、それを伝えていく活動です。そのため、人事部門だけでなく、経営層と全従業員を巻き込み、組織文化として根付かせていくことが不可欠です。

経営層のコミットメントの必要性とその示し方

採用ブランディングを成功させるためには、何よりも経営層の強いコミットメントが必要です。経営層が採用ブランディングの重要性を理解し、予算や人員などのリソースを確保し、積極的に関与する姿勢を示すことで、組織全体が同じ方向を向いて取り組むことができます。

経営層は、自社のビジョンや今後の事業展開と、どのような人材が必要なのかを明確に語り、採用活動の意義を社内外に発信する必要があります。例えば、採用サイトのトップメッセージに経営者の顔写真とメッセージを掲載したり、社員総会で採用活動の成果を共有したり、新しい採用ブランディング施策に対して積極的に賛同したりといった行動が、従業員の意識を高め、採用活動への協力を促します。

従業員の巻き込み方:インナーブランディングの深化

採用ブランディングは、外向きの活動(アウターブランディング)だけではありません。自社の従業員が「この会社で働くことに誇りを持っている」「この会社を友人や知人に勧めたい」と思えるような状態にする「インナーブランディング」こそが、強固な採用ブランディングの基盤となります。

ステップ①で実施した従業員へのヒアリングやアンケートは、インナーブランディングの第一歩です。さらに踏み込んで、以下のような取り組みを通じて従業員を巻き込みましょう。

  • 社内報やタウンホールミーティングでの情報共有: 会社の経営状況や今後の展望、そして採用活動の状況や意義について、従業員にオープンに共有します。自分たちがどのような仲間の入社を求めているのか、なぜ採用が重要なのかを理解してもらうことで、当事者意識が高まります。
  • 社員が語る企業魅力の発信: ステップ③で作成した採用向けコンテンツ(社員インタビュー記事や動画など)に、より多くの従業員に登場してもらいましょう。様々な部署、職種、年代の社員の「生の声」は、候補者にとって最も魅力的な情報の一つです。また、自身が会社の魅力発信に関わることで、従業員自身のエンゲージメント向上にも繋がります。
  • リファラル採用の推進: 従業員が自社を「紹介したい」と思える環境こそが、最も効果的なリファラル採用の推進力となります。紹介制度を分かりやすく周知し、紹介からの採用が成立した際には、紹介者と被紹介者の双方に感謝の意を示したり、インセンティブを付与したりといった仕組みを整えましょう。従業員一人ひとりが「採用担当者」となることで、採用のネットワークは格段に広がります。
  • エンプロイーサクセスの実現: 従業員が企業で成功体験を積み、自己成長を感じられる環境は、最高のインナーブランディングとなります。適切な目標設定、公正な評価、スキルアップの機会提供、キャリアパスの提示といったエンプロイーサクセスに繋がる取り組みは、社員満足度 採用という観点からも非常に重要です。従業員が幸せで活き活きと働いている企業こそが、最も魅力的な企業なのです。

インナーブランディングとアウターブランディングは、車の両輪です。社内がバラバラなのに、外向きにだけ良いことばかりをアピールしても、いずれ歪みが生じます。従業員一人ひとりが自社のファンとなり、自然と会社の魅力を語るようになる状態を目指しましょう。

インナーブランディングとアウターブランディングの連携

インナーブランディングで醸成された「社内のリアルな魅力」を、アウターブランディングで効果的に発信することが、採用ブランディング成功の鍵です。

例えば、社員が社内イベントで楽しんでいる様子をSNSで発信したり、従業員インタビューで語られたやりがいや企業文化のエピソードを採用サイト求人票に盛り込んだり、健康経営の具体的な取り組みを採用動画で紹介したりといった連携が考えられます。

社内で起きている良いこと、魅力的な取り組みを、積極的に社外に発信する仕組みを作りましょう。これにより、候補者は企業の「つくられたイメージ」ではなく、「ありのままの魅力」を感じることができ、入社後のミスマッチ防止にも繋がります。

まとめ:戦略的な採用ブランディングで、求める人材から「選ばれる」未来へ

本記事では、中小企業が直面する厳しい人材不足採用難といった採用課題を乗り越え、採用力強化を実現するための「採用ブランディング」について、その重要性から具体的な5つのステップ、そして組織文化として根付かせるための視点までを解説しました。

記事の要点を3つにまとめます。

  • 採用ブランディングは、単なる募集活動ではなく、企業の未来を左右する重要な「人材への投資」であり、人的資本経営の根幹をなす戦略です。 企業の魅力を見つけ、それを求める人材に効果的に伝えることで、応募者数の増加やミスマッチの減少、定着率向上といった具体的な効果が期待できます。
  • 採用ブランディングには明確なステップがあります。 ①自社の「魅力」を発掘する、②採用ターゲットと「コンセプト」を明確にする、③魅力的な「コンテンツ」を作成・整備する、④最適な「チャネル」でターゲットに届ける、⑤効果を測定し「継続的に」改善する、という5つのステップを踏むことで、着実に採用ブランディングを進めることができます。
  • 採用ブランディングは、人事部門だけでなく、経営層と全従業員を巻き込み、組織文化として根付かせることで最大の効果を発揮します。 インナーブランディングを深化させ、従業員一人ひとりが自社のファンとなることが、最も強力な採用ブランディングとなります。

では、この記事を読んだ人事担当者の皆様は、次に何をすべきでしょうか?

まずは、小さな一歩から踏み出してみましょう。

  • 自社の魅力の棚卸し: 改めて、自社の強みや働く魅力を洗い出してみましょう。従業員への簡単なアンケートや、部署ごとの座談会などを企画し、「生の声」を集めてみてください。健康経営働き方改革の視点から、自社の働く環境の魅力を洗い出すことも有効です。
  • 採用ペルソナの見直し: どのような人材が自社で活躍しているか、改めて考えてみてください。そして、次に採用したい人物像を、年齢や経験だけでなく、価値観や志向性も含めて具体的にイメージし、採用ペルソナを再設定してみましょう。
  • 採用サイトのコンテンツ見直し: 現在の採用サイトは、自社の魅力や採用コンセプトを十分に伝えられていますか? 社員紹介ページを追加したり、福利厚生を具体的に記述したり、働く環境の写真を更新したりと、できることからコンテンツを整備してみましょう。簡単な採用動画を作成し、掲載することも効果的です。
  • SNSでの情報発信計画: 候補者が活用しているSNSを特定し、どのような情報を発信すれば興味を持ってもらえるか検討してみましょう。まずは週に一度、社内の日常やイベントの様子を発信することから始めてみるのも良いでしょう。
  • 採用KPIの設定: 現在の採用活動の成果を測るための採用KPIを設定し、データを収集してみましょう。応募者数や選考通過率などを記録し、課題を特定することで、次の改善策が見えてきます。

採用できない 理由」を外部環境だけに求めるのではなく、「どうすれば自社の魅力を高め、求める人材に届けることができるか」を戦略的に考え、具体的な行動に移すことが、中小企業の採用の未来を切り拓きます。採用ブランディングは、まさにそのための羅針盤となるものです。

厳しい採用環境は今後も続くと予想されますが、戦略的な採用ブランディングに取り組むことで、貴社は求める人材から「選ばれる」企業へと確実に変わっていくことができます。一歩ずつで構いません。まずは自社の「魅力」を見つける旅に出てみましょう。

次回の投稿では、今回の記事でも触れた「リファラル採用」に焦点を当て、中小企業が取り組むべき具体的な推進方法や成功の秘訣について、さらに詳しく解説していく予定です。どうぞお楽しみに!