ここまで、資金繰りの重要性から、その見える化、様々な資金調達手段、そして「ヒト」との関係性まで、資金繰り・資金調達に関する幅広い知識や戦略について見てきました。これらの情報が、あなたの会社の資金繰りについて改めて考えたり、現状の課題に気づいたりするきっかけとなっていれば幸いです。
しかし、どんなに素晴らしい知識や情報を得ても、それを「知っている」だけで終わってしまっては、何も変わりません。最も重要なのは、学んだことを基に、実際に「行動」を起こすことです。
「でも、どこから手をつけていいか分からない…」 「資金繰り改善って、大掛かりなことなんじゃないの?」
そう感じている方もいらっしゃるかもしれません。ですが、安心してください。最初の一歩は、決して大それたことである必要はありません。まずは、小さくても良いので、具体的な行動を起こすこと。それが、資金繰り改善、そして会社の未来を切り拓くための確実なスタートとなります。
このセッションでは、これまでの学びを踏まえ、あなたが「明日から」すぐにでも取り組める、資金繰り・資金調達改善のための具体的な第一歩を3つご紹介します。
ステップ1:自社の資金繰り計画を改めて見直してみる
まず最初に行っていただきたいのは、あなたの会社の「資金繰り」に、意識的に向き合う時間を持つことです。
前回のセッションで、資金繰りの「見える化」の重要性についてお話ししました。まずは、その実践です。
- 現在の資金繰り表があるか確認しましょう。 もしあれば、最新の状態になっているか、今後数ヶ月の収入・支出予定が正確に反映されているかを確認してください。
- 資金繰り表がない、あるいは使っていない場合は、ぜひこの機会に作成を始めてみましょう。 最初は複雑なフォーマットを使う必要はありません。エクセルの簡単な表で構わないので、少なくとも今後3ヶ月程度の売上入金予定、仕入れ支払予定、人件費、家賃、借入金返済などの主要な収入・支出項目をリストアップし、手元資金がどう推移するかを予測してみましょう。これにより、資金が不足しそうな時期や、逆に余裕がありそうな時期が見えてきます。
- 運転資金の状況をチェックしましょう。 売掛金の回収に時間はかかっていないか、過剰な在庫を抱えていないか、買掛金の支払いは適切かなど、会社の血液である運転資金が滞りなく流れているかを確認します。
- 将来の資金需要を洗い出しましょう。 近い将来に設備投資を考えているか、新しい人材を採用する予定があるか、まとまった借入金の返済時期が迫っているかなど、将来発生しうる大きなキャッシュアウト要因をリストアップし、いつまでにいくら必要になりそうか予測します。
- これらの情報から、自社の資金繰りにおける潜在的な課題やリスクがないか検討します。 特定の月に資金が不足しそう、運転資金が膨らんでいる、計画している投資に必要な資金が足りないかもしれない、といった課題が見つかるかもしれません。
人事担当者の方であれば、自部門の今後の採用計画にかかるコスト、昇給や賞与の支払い時期、研修への投資などが、会社の資金繰りにどのように影響するのかを、財務部門と連携して把握するよう努めてみてください。これは、自部門の計画をより経営全体の視点から捉え直す良い機会になります。
この「見直してみる」という行為そのものが、資金繰りに対する意識を高め、問題の早期発見や対策の検討に繋がる第一歩となります。
ステップ2:顧問税理士や外部の専門家へ相談する
自社の資金繰り状況をある程度把握できたら、次は外部の専門家の知見を借りることを検討しましょう。最も身近な専門家は、日頃からお付き合いのある顧問税理士です。
- 顧問税理士への相談: 税務申告をお願いしている顧問税理士は、あなたの会社の財務状況をよく理解しています。資金繰り表を見てもらい、何か問題がないか、改善できる点はないか相談してみましょう。資金調達に関しても、基本的なアドバイスや、適切な専門家・金融機関の紹介をしてもらえる可能性があります。
- 中小企業診断士や財務コンサルタントへの相談: より踏み込んだ経営改善計画の策定や、複雑な資金調達戦略の立案、あるいは金融機関との交渉に不安がある場合は、中小企業診断士や財務コンサルタントといった専門家への相談を検討しましょう。彼らは、客観的な視点と専門知識に基づき、あなたの会社に最適なソリューションを提供してくれます。費用はかかりますが、それ以上のリターンが期待できる場合も少なくありません。
- 専門家の選び方: 信頼できる専門家を見つけるためには、知人からの紹介や、過去の実績、得意分野などを確認することが重要です。初回相談を無料で実施している専門家も多いので、まずは複数の専門家と話してみて、フィーリングが合うかどうか、自社の課題を理解してくれるかなどを確認するのも良いでしょう。
人事担当者の方も、顧問税理士や中小企業診断士との打ち合わせに同席したり、人材戦略が経営計画や資金計画にどう盛り込まれているかを確認したりすることで、資金繰りに関する理解を深め、自部門が貢献できるポイントを見つけることができるかもしれません。
外部の専門家は、自社の中にいるだけでは気づけない課題を指摘してくれたり、最新の補助金・助成金情報や金融機関の動向などを教えてくれたりする貴重な存在です。
ステップ3:付き合いのある金融機関や地域の支援機関に積極的に相談する
資金繰りや資金調達について、最も直接的な相談相手となるのが、普段から取引のある金融機関です。そして、中小企業を支援するための公的な機関も、強力な味方になってくれます。
- 付き合いのある金融機関への相談: 資金が必要になる直前になって慌てて相談に行くのではなく、定期的に(例えば半年に一度など)金融機関の担当者と面談の機会を持ち、自社の経営状況や今後の見通し、資金計画について積極的に情報提供を行いましょう。資金繰り表を持参し、数字に基づいて説明することで、金融機関からの信頼は高まります。資金が必要になった際も、日頃からコミュニケーションが取れていれば、よりスムーズに相談に乗ってもらえる可能性が高まります。「うちは借り入れはしないから関係ない」と思わず、良好な関係を築いておくことが重要です。
- 政府系金融機関(日本政策金融公庫など)への相談: 日本政策金融公庫は、中小企業向けの融資に特化しており、創業資金、設備資金、運転資金など、様々なニーズに対応した融資制度があります。民間の金融機関の審査が通りにくい場合でも、公的な視点から融資を検討してくれる可能性があります。また、融資だけでなく、経営相談も受け付けています。
- 信用保証協会への相談: 信用保証協会の保証制度を活用したい場合は、直接相談窓口に問い合わせてみるのも良いでしょう。制度の仕組みや利用の流れについて詳しく説明してもらえます。
- 商工会議所・商工会への相談: 各地域にある商工会議所や商工会は、中小企業の経営支援を目的とした団体です。資金繰りに関する相談はもちろん、経営コンサルタントの紹介、セミナーの開催、補助金・助成金に関する情報提供など、幅広いサポートを受けることができます。
- 地方公共団体の中小企業支援窓口への相談: 都道府県や市区町村も、中小企業向けの独自の融資制度や補助金制度、経営相談窓口を設けている場合があります。自社の所在地を管轄する自治体のウェブサイトなどを確認してみましょう。
これらの機関に相談に行く際は、ステップ1で見直した資金繰り計画や、簡単な事業計画のたたき台を持参すると、より具体的な相談ができます。自社の状況を正直に伝え、どのような支援制度や資金調達方法が利用できるか、プロの視点からアドバイスを求めましょう。
まとめ:最初の一歩は小さくて良い。行動を起こすことで、状況は必ず変わる。
資金繰り・資金調達の改善は、一朝一夕で成し遂げられるものではありません。しかし、今回ご紹介した「資金繰り計画の見直し」「外部専門家への相談」「金融機関・支援機関への相談」という3つのステップは、どれも明日からすぐにでも取り組める、具体的で実行可能なものです。
これらの最初の一歩を踏み出すことで、自社の資金状況に対する意識が高まり、課題が明確になり、そして解決に向けた具体的な道筋が見えてくるはずです。行動を起こせば、必ず何かが変わります。
このシリーズを通じて得た知識が、あなたの会社の資金繰り、ひいては未来をより強く、より安定させるための行動のきっかけとなれば、これほど嬉しいことはありません。
最後のセッションでは、改めて、資金繰り改善が不確実な時代を生き抜くための最大の「未来への投資」である理由についてまとめ、エールを送りたいと思います。