02-3. 【最新事例に学ぶ】成功企業はこうやっている!健康経営とウェルビーイング実践例

ウェルビーイング、メンタルヘルス、健康診断を連携させることの重要性や具体的なステップは理解できた。では、実際にこれらの取り組みを進めている企業はどのような成果を上げているのでしょうか?国内外の事例を見てみましょう。成功企業の取り組みは、自社の課題解決や新しい施策のヒントになるはずです。

健康経営優良法人認定企業に見る具体的な施策と成果

経済産業省が推進する「健康経営優良法人認定制度」は、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人を顕彰するものです。特に中小規模法人部門には、私たち中小企業にとって大いに参考になる先進的な取り組みを行っている企業が多数あります。

例えば、ある製造業の中小企業A社では、定期健康診断の有所見率が高いことに課題を感じていました。そこで、単に受診勧奨を行うだけでなく、産業医や保健師と連携し、有所見者一人ひとりに対し丁寧な面談を実施。さらに、健康診断結果とストレスチェックの結果を部署別に分析したところ、長時間労働が常態化している特定の部署で、有所見率と高ストレス者率が共に高いという関連性が浮き彫りになりました。これを受け、A社では、その部署を中心に業務効率化のための管理職向け研修を実施し、外部専門家によるメンタルヘルス研修も導入。その結果、数年後には有所見率、高ストレス者率ともに有意な改善が見られ、同時に従業員の残業時間も減少、生産性も向上したといいます。健康診断データを単なる個人の結果としてではなく、職場全体の健康課題を示すサインとして捉え、具体的なアクションにつなげた好事例です。

米国企業のEAP活用とウェルビーイングプログラムの実態

米国企業では、EAP(従業員支援プログラム)がメンタルヘルスケアの中心的な役割を担っており、日本のEAPよりもサービス内容が広範かつ従業員の利用率が高い傾向にあります。EAPは、従業員とその家族が抱える様々な問題(メンタルヘルス、人間関係、法務、財務、育児・介護など)に対して、専門家による無料かつ匿名での相談やカウンセリングを提供するプログラムです。多くの企業がEAPを導入しており、従業員が気軽に専門家のサポートを受けられる環境が整備されています。

また、米国の先進企業では、身体的健康、精神的健康、経済的健康、社会的健康など、多角的な側面から従業員のウェルビーイングをサポートする包括的なプログラムを提供しています。フィットネスジムの利用補助、マインドフルネス研修、ファイナンシャルプランニング支援、ボランティア休暇制度など、多様なニーズに応える施策を展開しています。これらの取り組みは、従業員のエンゲージメントと生産性向上に寄与することが多くの研究で示されており、企業の競争力強化に繋がっています。日本の中小企業でも、外部EAPサービスの導入や、従業員の多様なニーズに応える福利厚生制度の拡充といった形で参考にできる点は多いでしょう。

健康診断データを経営戦略に活かす具体的なステップ(事例を交えて)

健康診断データを経営戦略にまで昇華させている企業は、単にデータを収集・分析するだけでなく、それを基にした具体的なアクションとその効果測定までをPDCAサイクルとして回しています。

例えば、あるIT企業B社では、リモートワーク移行後に従業員の運動不足やメンタルヘルスの課題が増加傾向にあることを健康診断データとストレスチェック、さらには従業員アンケートの結果から把握しました。そこで、B社は「従業員の運動習慣定着」と「オンラインでの交流促進」を重点施策に設定。オンラインフィットネスサービスの利用補助、バーチャルウォーキングイベントの開催、そして気軽に雑談できるオンラインスペースの設置といった取り組みを行いました。これらの施策の効果を、再度健康診断データ(肥満度や血圧などの指標)と従業員アンケート(運動時間、コミュニケーション満足度など)で測定したところ、対象者の運動習慣定着率やオンラインでの交流機会が増加し、心身の健康状態に関する肯定的な回答が増加したという成果が得られました。

このように、健康診断データを活用した経営戦略は、以下のステップで進められます。

  1. データ収集と分析: 健康診断、ストレスチェック、従業員アンケートなど、複数のデータソースを統合し、自社の健康課題を多角的に分析する。
  2. 課題の特定と目標設定: 分析結果に基づき、具体的な健康課題(例:生活習慣病リスクの高さ、メンタルヘルス不調の増加傾向など)を特定し、改善のための具体的な目標(例:有所見率〇%削減、高ストレス者率〇%低下など)を設定する。
  3. 施策の企画・実施: 目標達成に向けた具体的な施策(例:特定保健指導の強化、メンタルヘルス研修の実施、運動機会の提供など)を企画し、実行する。
  4. 効果測定と評価: 一定期間後、再度健康診断データやストレスチェック、アンケートなどを実施し、施策が目標達成にどの程度貢献したかを評価する。
  5. 改善と展開: 効果があった施策は継続・拡大し、効果が限定的だった施策は見直しや改善を行う。このサイクルを継続することで、より効果的な健康経営を推進する。

中小企業においては、このサイクルを回すための人的・時間的リソースが限られる場合が多いでしょう。次セクションでは、そういった中小企業がコストやリソースの壁を乗り越え、これらの取り組みを実現するための具体的な解決策をご紹介します。