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05-5. 人材確保・定着は「賃上げ」で劇的に変わる!中小企業のための戦略

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賃上げの必要性、中小企業が直面する課題、そして具体的な手法や非金銭報酬・働きがいといった多角的なアプローチについて掘り下げてきました。これらの議論の先に、私たちが目指す最も重要な成果の一つが、中小企業にとって喫緊の課題である「優秀な人材の確保」と「大切な人材の定着」の実現です。

多くの経営者や人事担当者の皆様が、採用の難しさや離職による貴重なノウハウの流出に、日々頭を悩ませていることと思います。しかし、これまで述べてきた賃上げを含む人的資本への戦略的な投資は、この採用と定着という二つの経営課題に、劇的な改善をもたらす可能性を秘めています。

このセクションでは、賃上げを中心とした取り組みが、具体的にどのように御社の採用力と定着率を高めるのか、そのメカニズムと実践的なアプローチについて解説します。

5-1. 「賃上げ企業」が勝つ! 採用市場での優位性を築く方法

現在の労働市場は、少子高齢化による構造的な人手不足に加え、転職へのハードルが下がり、個人の価値観が多様化したことで、企業間の人材獲得競争がかつてないほど激化しています。特に、知名度やブランド力で大手企業に劣りがちな中小企業は、採用活動において不利な立場に立たされがちです。

しかし、賃上げを含む「競争力のある報酬」を提供できる企業は、この厳しい採用市場において、明確な優位性を築くことができます。

なぜなら、多くの求職者にとって、給与水準は依然として重要な判断基準だからです。インターネットやSNSを通じて、企業の給与情報がある程度オープンになっている現代では、「給与水準が見合わない」と感じる求職者は、そもそも応募を検討しないか、選考の途中で離脱してしまいます。

競争力のある賃金設定は、まず**「より広い範囲から、より多くの応募者を集める」**ための第一歩です。給与レンジを引き上げることで、これまで対象外だった層や、より高いスキルを持つ層にも求人情報が届くようになります。

さらに、前回までに議論した**「成果や貢献を適切に評価し、報酬に反映する仕組み」や、「柔軟な働き方、充実した非金銭報酬、成長機会」**といった要素を組み合わせることで、単なる給与額だけでなく、企業全体の「総報酬」としての魅力を高めることができます。これにより、

  • 応募者の「質」が向上します: 高い給与と明確な評価制度は、自身の市場価値を理解し、成長意欲の高い優秀な人材を惹きつけます。
  • 選考辞退率を低下させます: 面接で提示される給与水準が魅力的であり、入社後のキャリアや収入の可能性を具体的にイメージできると、求職者の「この会社で働きたい」という意欲が高まり、他社への流出を防ぎやすくなります。
  • 採用コスト・工数を削減できます: 応募者数が増え、内定承諾率が高まることで、求人広告費や採用担当者の工数を削減し、より効率的な採用活動が可能になります。
  • 「採用ブランディング」が強化されます: 「社員の頑張りにしっかり報いる会社」「働きやすい環境を整えている会社」といったポジティブな評判は、新たな求職者を惹きつける強力なブランド力となります。

採用力強化のための実践的なアプローチ:

  • 賃金水準の外部比較と目標設定: 自社の業種や地域、募集職種における市場の給与水準を調査し、競争力のある水準を設定します。すべてにおいてトップレベルを目指す必要はありませんが、少なくとも応募対象となる層にとって魅力的なレンジを設定することが重要です。
  • 求人情報の徹底的な魅力化: 給与・賞与の金額や、昇給・昇格の仕組みだけでなく、非金銭報酬(福利厚生、手当、休暇制度など)や、柔軟な働き方、研修制度、職場の雰囲気といった「総報酬」と「働きがい」に繋がる要素を、具体的に、かつ分かりやすく求人情報に記載します。
  • WebサイトやSNSでの情報発信: 採用サイトを充実させ、従業員インタビューや写真、動画などを活用して、企業の魅力や働くリアルな様子を伝えます。賃上げや働き方改革への取り組みについても積極的に発信しましょう。
  • 社員紹介制度の活用: 賃上げや働きがいに満足している社員は、会社の最高の「採用エージェント」です。社員紹介制度を設け、紹介による採用を促進することで、質の高い応募者を低コストで獲得できます。

例えば、ある地方の製造業では、従来の年功序列的な給与体系を見直し、特に不足していた技術職の給与水準を地域相場より高く設定。さらに、特定のスキル習得に対して資格手当を新設したことを求人情報で大々的にアピールした結果、以前は応募がほとんどなかった経験者層からの応募が増加し、必要な技術力を持つ人材の採用に成功しました。これは、賃上げが採用ターゲット層の拡大と質の向上に直結した好事例と言えます。

5-2. 従業員の定着率向上:離職防止とエンゲージメントを高める賃上げ活用術

せっかくコストと労力をかけて採用した優秀な人材も、早期に離職してしまっては元も子もありません。離職は、補充のための採用コストだけでなく、業務効率の低下、チームメンバーへの負担増、そして何より組織に蓄積されたノウハウや文化の喪失といった、企業にとって計り知れない損失に繋がります。

賃上げや働きがいへの取り組みは、この「定着率向上」と「離職防止」においても、極めて有効な手段です。多くの離職理由の背景には、「給与への不満」「評価への不満」「人間関係」「将来への不安」「ワークライフバランスの崩壊」などがあります。賃上げを含む戦略的な取り組みは、これらの主要な離職理由に多角的にアプローチします。

  • 主要な離職理由の解消: 市場に見合った賃金や、頑張りを正当に評価して報酬に反映する仕組みは、「給与・評価への不満」という最も一般的な離職理由に直接的に対処します。
  • 「公平性」と「正当性の実感」: 透明性のある評価基準と、それが報酬に繋がる仕組みは、従業員が「自分は会社から正当に評価され、報われている」と感じるために不可欠です。この「公平性」への信頼感は、会社へのエンゲージメントとロイヤリティの根幹となります。
  • 会社への「愛着」と「貢献意欲」の醸成 (エンゲージメント向上): 賃上げだけでなく、福利厚生の充実、柔軟な働き方、健康経営による心身のサポート、キャリア形成支援などは、「会社が自分たちを大切にしてくれている」という実感を生み出します。これにより、従業員の会社への愛着(ロイヤリティ)が高まり、「この会社のために頑張ろう」「長く働きたい」という貢献意欲(エンゲージメント)が向上します。エンゲージメントの高い従業員は、離職率が低い傾向にあります。
  • 良好な人間関係と働きがいのある職場文化の促進: 金銭だけでなく、非金銭報酬や働き方改革への投資を通じて、従業員が気持ちよく、互いに協力し合える職場環境が生まれます。これは、人間関係を理由とする離職の防止に繋がり、「働きがい」を感じやすい組織となります。
  • 将来への希望: 賃上げと連動したキャリアパスが明確であることや、会社が継続的に成長するための戦略(人的資本への投資含む)が見えることは、従業員の将来への不安を和らげ、「この会社にいれば大丈夫だ」という安心感と希望を与え、定着に繋がります。

定着率向上・離職防止のための実践的なアプローチ:

  • 報酬・評価に関する定期的なコミュニケーション: 一方的に制度を変えたり、金額を伝えたりするだけでなく、なぜ賃上げをするのか、評価と報酬はどのように連動するのか、一人ひとりの評価がどのように報酬に繋がるのか、といった点を、面談などを通じて丁寧に説明します。従業員の疑問や不安に耳を傾け、対話を通じて納得感を醸成することが不可欠です。
  • 非金銭報酬・福利厚生の積極的な利用促進: 導入した制度が「絵に描いた餅」にならないよう、社員に周知徹底し、利用しやすい雰囲気を作ります。利用状況を把握し、社員のニーズに合った制度になっているか定期的に見直しましょう。
  • キャリア開発の支援と提示: 社員のキャリア志向を把握し、必要なスキルアップのための研修機会の提供や、社内でのキャリアパス(昇進、部署異動、新しい業務への挑戦など)を具体的に提示します。
  • エンゲージメントサーベイの実施と改善サイクル: 定期的に従業員のエンゲージメントや満足度に関する調査を行い、組織の強み・弱みを把握します。その結果を真摯に受け止め、賃金制度や評価制度、働き方、社内コミュニケーションといった改善策に反映させ、そのプロセスを社員にフィードバックします。

例えば、エンゲージメントスコアが低く離職率が高かったあるサービス業の中小企業が、社員の声を聞きながら賃金制度を見直し、評価と報酬の連動を強化。さらに、健康診断後のフォローアップを充実させ、有給休暇の取得率向上にも取り組んだ結果、社員の会社への信頼感と働きがいが向上し、数年で離職率が大幅に低下した事例があります。これは、賃上げを含む多角的な人的資本への投資が、エンゲージメントと定着率の向上に繋がった成功例と言えるでしょう。


賃上げ、そしてそれを支える人事評価制度や非金銭報酬、働きがいへの投資は、中小企業の「採用力強化」と「定着率向上」という、事業継続と成長にとって最も重要な課題に直接的に貢献します。これらは単なるコストではなく、将来の企業を支える「人的資本」への必要不可欠な投資なのです。

これらの取り組みを通じて、優秀な人材を獲得し、彼らが長期にわたって高いモチベーションとエンゲージメントを持って活躍できる環境を整備することが、結果として企業の生産性向上、収益力強化、そして持続的な企業価値向上へと繋がります。

次の最終セクションでは、これまでの議論を総括し、賃上げを「人的資本経営」の中核に位置づけ、どのように企業価値向上へと結びつけていくか、その全体像と戦略的な視点について改めて解説します。