「分かってはいるけど、現実的には難しくて…」中小企業が人材育成・リスキリングで直面する壁
前章では、変化の激しい時代に中小企業が生き残り、成長するために、人材育成やリスキリングがどれほど重要か、そしてそれが「人的資本経営」や「DX推進」といかに深く結びついているかをお伝えしました。その重要性は、きっと多くの経営者や人事担当者の方が頭では理解されていることと思います。
しかし、同時にこう感じているのではないでしょうか?
「重要性は分かった。でも、言うは易く行うは難し…」 「うちのような体制で、本当にそんなことができるのだろうか?」
まさに、その通りです。人材育成やリスキリングの必要性を理解することと、それを自社で実行することの間には、少なくないギャップがあります。そして、多くの中小企業が、そのギャップの前で立ち止まってしまう「リアルな課題」に直面しています。
ここでは、中小企業が人材育成・リスキリングを推進しようとした際に、ぶつかりがちな具体的な壁について、一つずつ見ていきましょう。これらの課題は、決してあなたの会社だけのものではありません。
2-1. コスト・予算・リソースの制約
中小企業にとって、人材育成への投資は、大企業に比べてどうしてもハードルが高くなりがちです。
- 研修費用: 外部講師を招いたり、専門的なeラーニングシステムを導入したりするには、まとまった費用がかかります。特に、複数の社員に新しいスキルを習得させようとすると、その費用はさらに膨らみます。
- 時間的コスト: 社員が研修や学習に費やす時間は、その間の「非稼働時間」と見なされがちです。特に少人数の体制で事業を回している場合、「誰かが学ぶ時間は、他の誰かの負担増になる」という現実的な課題が生じます。
- 人的リソース: 大企業のように、専任の研修担当者や、人材開発の部署がある中小企業は多くありません。人事担当者が採用や労務管理と兼任していたり、経営者自身がその役割を担っていたりするケースがほとんどです。育成計画の策定、研修の選定、運営、効果測定までを限られたリソースで行うのは、容易ではありません。
「やりたい気持ちはあるが、予算が組めない」「専任の担当者を置く余裕がない」といった声は、中小企業において非常によく聞かれる課題です。
2-2. 計画・ノウハウ不足:何から始めて良いか分からない
「よし、人材育成に取り組もう!」と思っても、次に直面するのが「何からどう始めて良いか分からない」という問題です。
- 現状分析の難しさ: 「うちの会社に今、どんなスキルが足りていないのか?」「将来に向けて、どんな人材が必要になるのか?」といった、育成ニーズの正確な把握が難しい場合があります。漠然とした必要性は感じていても、具体的に言語化できていないケースが多く見られます。
- 目標設定の曖昧さ: 育成の目標が、「とりあえず何か学ばせよう」といった漠然としたものになりがちです。どのようなスキルを習得すれば、それが事業成果にどう結びつくのか、といった具体的な目標設定ができていないと、育成計画も立てにくくなります。
- プログラム設計の知識不足: どのような研修が効果的なのか、社内OJTと外部Off-JTをどう組み合わせるべきか、eラーニングは有効か、といったプログラム設計に関する専門的な知識やノウハウが不足している場合があります。結果として、場当たり的な研修になってしまったり、投資に見合う効果が得られなかったりします。
「以前、外部研修を受けさせたが、あまり効果がなかった」「うちの仕事に合う育成方法が分からない」といった経験から、次のステップに進めずにいるケースも少なくありません。
2-3. 従業員の意識・モチベーションの壁
人材育成は、会社側の取り組みであると同時に、従業員自身の主体的な参加が不可欠です。しかし、ここにも様々な課題が存在します。
- 「やらされ感」: 会社から一方的に与えられる研修や学習に対して、「やらされ感」を感じてしまい、主体的に取り組むモチベーションが低い場合があります。
- 変化への抵抗: 新しいスキル習得や、慣れない業務への挑戦に対して、不安や抵抗を感じる従業員もいます。「今のままで十分」「年だから新しいことは覚えられない」といった声が聞かれることも。
- 目的意識の欠如: なぜそのスキルが必要なのか、それが自分のキャリアにどう繋がるのか、といった目的意識が不明確だと、学習への意欲が湧きにくいです。会社側がその目的を明確に伝えきれていない場合もあります。
- 多忙による断念: 日々の業務に追われ、学習時間を確保できなかったり、疲労から学習意欲が湧かなかったりすることも、中小企業では起こりがちです。
従業員一人ひとりの状況や価値観が異なる中で、どのように全員の学習意欲を引き出し、維持していくかは、非常に難しい課題です。
2-4. 日々の業務に追われ、育成に時間を割けない実情
おそらく、多くの中小企業が最も強く感じているであろう課題が、これではないでしょうか。
「目の前のことで精一杯で、人材育成なんて考えている暇がない」 「新しい業務や緊急対応が入ると、すぐに育成計画が後回しになる」
少人数の体制でギリギリの業務を回している中小企業では、従業員も管理職も、常に目の前のタスクに追われています。新しいプロジェクトの立ち上げ、予期せぬトラブル対応、季節ごとの繁忙期…。どれも会社の存続に直結するため、育成の時間はどうしても削られがちです。
また、管理職層もプレイヤーとしての業務負荷が高く、部下の育成に時間をかける余裕がない、あるいは部下を育成するスキルや経験が不足している、といったケースも散見されます。OJTが進まない、部下の相談に乗れない、といった状況は、組織全体の成長を阻害します。
このように、コスト、ノウハウ、従業員の意識、そして何より「時間」という、複合的な課題が絡み合い、中小企業における人材育成・リスキリングの取り組みを難しくしています。
しかし、これらの課題は、乗り越えられない壁ではありません。多くの企業がこれらの課題と向き合いながらも、少しずつ、しかし確実に人材育成を進め、成果を出し始めています。
では、これらのリアルな課題に対して、中小企業は具体的にどのようなアプローチを取れば良いのでしょうか?
次のセッションでは、これらの課題を乗り越え、「明日から実践できる」人材育成・リスキリング成功のための具体的なステップについて、詳しく解説していきます。