10-4. 中小企業こそ活用すべき!人材育成・リスキリングに使える「助成金・補助金」ガイド

「コストが…」を解決する糸口に!中小企業のための人材育成・リスキリング助成金・補助金活用術

これまでのセッションで、変わりゆく時代における人材育成・リスキリングの重要性、そして中小企業が直面しがちな課題についてお話ししてきました。特に「コスト・予算・リソースの制約」は、多くの企業様にとって最も現実的な壁となっていることでしょう。

「重要性は分かったし、ステップも理解できた。でも、やっぱり費用負担が厳しいんだよな…」

もしあなたがそう感じているなら、ぜひ知っていただきたい強力な味方があります。それが、国や自治体などが提供している**「人材育成・リスキリングに関する助成金や補助金」**です。

これらの公的支援制度は、企業が従業員のスキルアップや新しい知識の習得を支援する際にかかる費用の一部を補填してくれるものです。うまく活用すれば、費用負担を大幅に軽減し、これまで予算的に難しかった育成計画も実行に移せる可能性が広がります。

中小企業こそ、これらの制度を積極的に活用すべきです。

4-1. 知らないと損!主要な助成金・補助金の概要

人材育成・リスキリングに活用できる助成金や補助金はいくつか種類がありますが、ここでは中小企業が特に関心を寄せる可能性のある、代表的な制度の方向性をご紹介します。

主な目的として、以下のような費用の一部を支援するものが多く見られます。

  • 研修やセミナーの受講費用: 外部の研修機関が提供するOff-JTの受講料。特定の専門スキル(例:ITスキル、語学、マネジメント、営業スキルなど)や、新しい分野(例:DX関連、データサイエンス、AI活用など)の研修が対象となりやすいです。
  • オンライン学習(eラーニング)の費用: eラーニングプラットフォームの利用料や、特定のオンラインコースの受講料。時間や場所を選ばずに学べるeラーニングは、中小企業にとって活用しやすい形式であり、これを支援する制度も増えています。
  • OJT実施にかかる費用: OJTの計画・実施に必要な経費の一部。例えば、指導員に対する手当や、OJTのために特別に作成したマニュアル等の作成費用などが対象になる場合があります。
  • 研修期間中の賃金の一部: 従業員が研修に参加している間の賃金の一部を助成するもの。これは、特に研修時間が長時間に及ぶ場合に、企業が負担する人件費の軽減に繋がります。
  • 外部専門家への委託費用: 人材育成計画の策定や、特定のスキルの研修を外部の専門家(コンサルタントなど)に委託する際にかかる費用。

これらの制度は、厚生労働省が雇用保険を財源として実施しているもの(主に「助成金」と呼ばれ、雇用の安定や能力開発を目的とし、要件を満たせば比較的高い確率で受給できる傾向があります)や、経済産業省やその他の府省庁が、特定の政策目標(例:DX推進、生産性向上など)の実現のために実施しているもの(主に「補助金」と呼ばれ、公募制で審査があり、採択件数に限りがある傾向があります)、さらには各都道府県や市区町村が独自に実施しているものなど、多岐にわたります。

情報収集の窓口は?

具体的な制度名や募集内容は、時期によって変動したり、要件が変更されたりします。常に最新の情報を得るためには、以下の公的機関のウェブサイトなどを定期的に確認することが有効です。

  • 厚生労働省: 雇用・労働分野の助成金情報。特に「人材開発支援助成金」は、様々な訓練コースを対象としており、中小企業にとって最も関連が深いです。
  • 経済産業省: 産業振興やDX推進などに関する補助金情報。IT導入補助金など、デジタル化に関連する補助金が人材育成に繋がるケースもあります。
  • 各都道府県・市区町村のウェブサイト: 地域独自の助成金や補助金制度を実施している場合があります。
  • ハローワーク: 厚生労働省の助成金に関する相談や情報提供を行っています。

「知らないと損」です。まずは、自社の所在地や、どのような人材育成・リスキリングを計画しているのかを念頭に、これらの窓口で情報を収集することから始めてみましょう。

4-2. 申請のポイントと注意点

魅力的な助成金・補助金ですが、申請や受給にはいくつかのポイントと注意点があります。これを押さえておくことで、スムーズな活用が可能になります。

申請のポイント

  • 情報収集と計画の早期着手: 多くの制度は、研修を開始する前に申請・認定を受ける必要があります。公募期間が決まっているものも多いので、余裕をもって情報収集を行い、育成計画の策定と並行して申請準備を進めることが重要です。
  • 要件の確認と自社状況との照合: 制度ごとに、企業の規模、業種、対象となる訓練の種類、受講者の雇用形態(正規・非正規)、訓練時間など、詳細な要件が定められています。自社の計画がその要件を満たしているかを、募集要項を熟読して丁寧に確認しましょう。
  • 育成計画の具体性: 申請時には、どのような目的で、誰に、どのような内容の訓練を、いつからいつまで実施するのか、といった具体的な育成計画の提出が求められます。前章のステップ①、②で明確にした「未来に必要な人材像」「ギャップ分析」「育成目標」が、この計画策定の土台となります。計画の妥当性や効果性が審査のポイントとなります。
  • 必要書類の準備と正確な記入: 会社の情報、従業員の情報、訓練内容の詳細、費用の内訳など、様々な書類提出が必要です。不備があると審査が滞ったり、不採択になったりします。記載例などを参考に、正確に記入しましょう。
  • 相談窓口の活用: 申請方法や要件が複雑な場合もあります。ハローワークの助成金窓口や、申請を支援してくれる専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など)に相談することをおすすめします。専門家のサポートを得ることで、申請書類の質を高め、採択の可能性を上げることができます(ただし、専門家への報酬は通常、自己負担となります)。

活用上の注意点

  • 後払いが多い: 助成金・補助金の多くは、訓練が終了し、所定の報告書を提出した後に支給されます。つまり、訓練にかかる費用は、一旦自社で立て替える必要があります。資金繰りを考慮して計画を立てましょう。
  • 厳格な管理と報告義務: 支給を受けるためには、訓練の実施状況、出席状況、費用の支出などを証明する書類(出勤簿、賃金台帳、領収書、研修の記録など)を適切に保管し、詳細な報告書を提出する必要があります。不正受給は厳しく罰せられます。
  • 制度変更の可能性: 助成金・補助金制度は、国の政策や予算によって内容や募集時期が変更されることがあります。常に最新の情報を確認することが重要です。
  • 助成金は目的ではない: 助成金や補助金は、あくまで人材育成・リスキリングという目的を達成するための「手段」です。助成金ありきで訓練内容を決めるのではなく、自社に必要な育成を計画し、その上で活用できる制度を探す、という順序が望ましいです。

まとめ:賢く制度を活用し、人材投資を加速させよう

人材育成・リスキリングは、未来への重要な投資ですが、特に中小企業にとってコストは無視できない課題です。しかし、国や自治体は、企業のこの取り組みを支援するための様々な制度を用意しています。

これらの助成金や補助金を賢く活用することで、研修費用の負担を軽減し、より多くの社員に質の高い学習機会を提供することが可能になります。これは、人的資本経営を推進し、変化に強い組織を作るための強力な後押しとなるはずです。

申請には計画性や手間が必要ですが、その見返りは十分に大きいです。まずは情報収集から始め、自社が活用できる制度がないか確認してみてください。

さて、ここまで、人材育成・リスキリングの重要性、中小企業が抱える課題、そして具体的な実践ステップと助成金活用について見てきました。実は、これらの取り組みは、単に社員のスキルを高めるだけでなく、企業の様々な側面、例えば社員の「働きがい」や「健康」、さらには最新テクノロジーである「生成AI」の活用とも密接に関わっています。

最後のセッションでは、人材育成・リスキリングがもたらす、こうした多面的な好影響について解説します。ぜひ、取り組みのモチベーションに繋げてください。