11-7. まとめ:未来を創る鍵は「従業員の働きがい」にある ~まずは一歩を踏み出そう~

このブログシリーズを通じて、私たちは「従業員のエンゲージメント・働きがい向上」というテーマを、中小企業の皆様が直面する現実的な課題に寄り添いながら深掘りしてきました。

採用がうまくいかない、人がすぐに辞めてしまう、世代が違ってどう関わればいいか分からないといった、日々の経営や人事の悩み(第1回)は、実は従業員の「働きがい」やエンゲージメントの深さと密接に関わっていること。そして、エンゲージメントは単なる「満足」ではなく、会社への貢献意欲や愛着といった強い結びつきであり、これが生産性向上や離職率低下、さらには強固な企業文化の醸成に繋がる重要な経営指標であること(第2回)を確認しました。

次に、やみくもに手を打つのではなく、まずは自社のエンゲージメント状態を正しく「見える化」することの重要性をお伝えしました。エンゲージメントサーベイだけでなく、現場の生の声を聞くことの価値についても触れました(第3回)。

そして、経営層・管理職のリーダーシップ、コミュニケーションの質向上(特に1on1)、成長機会とキャリアパスの提示、公正な評価と適正な報酬、そして柔軟な働き方とウェルビーイングへの配慮といった、中小企業でも「明日から実践できる」具体的な施策を多数ご紹介しました(第4回)。

さらに、せっかく始めた施策を単なるブームで終わらせず、継続的な取り組みとして組織に根付かせるための鍵、他社事例から学びつつ自社にフィットさせる重要性、そして効果測定とPDCAサイクルを回すことの不可欠性についても議論しました(第5回)。

最終的には、これらの従業員エンゲージメント向上への取り組みが、短期的な課題解決に留まらず、人材を「資本」として捉えその価値を最大化する「人的資本経営」の視点から、企業の持続的な成長と未来の企業価値向上に不可欠な「投資」であること(第6回)を力強くお伝えしました。

7-1. 自社のエンゲージメント課題を問い直す

さて、ここまで読み進めていただいたあなたは、きっと自社の「働きがい」やエンゲージメントについて、様々な思いを巡らせていることでしょう。もしかしたら、これまで気づかなかった課題が見えてきたかもしれません。あるいは、漠然と感じていた問題の根源に、エンゲージメントが関係していることに気づいた方もいるかもしれません。

ここで、少し立ち止まって、これまでの内容を振り返りながら、ご自身の会社に問いかけてみてください。

  • 第3セッションの「見える化」を参考に、あなたの会社の従業員エンゲージメントは、今どのレベルにあると感じますか? もしサーベイをしたことがなければ、勘で良いので点数をつけてみるとしたら何点くらいになるでしょう?
  • 第1セッションで挙げた「採用難」「離職率」「世代間ギャップ」といった課題は、あなたの会社ではどの程度深刻でしょうか? これらはエンゲージメントの低さと関連している可能性がありそうでしょうか?
  • 第4セッションで紹介した具体的な施策の項目(リーダーシップ、コミュニケーション、成長、評価・報酬、働き方・ウェルビーイング)の中で、あなたの会社はどの領域が強みで、どの領域が弱みだと感じますか? 特に、従業員が最も不満や課題を感じていそうなのはどの点でしょうか?
  • 現在、従業員の声を聞く仕組みや、それに基づいて改善活動を行うサイクルはどの程度回っていますか?(第3回、第5回参照)
  • 経営層や管理職は、従業員の「働きがい」やエンゲージメントについて、どの程度関心を持ち、具体的な行動に関与しているでしょうか?(第4回、第5回参照)
  • 従業員を「コスト」としてではなく、「未来の価値を創造する資本」として捉え、投資するという視点は持てているでしょうか?(第6回参照)

これらの問いへの答えに、きっとあなたの会社が取り組むべき「エンゲージメント課題」のヒントが隠されているはずです。課題と向き合うのは勇気がいりますが、これこそがより良い組織を創るための第一歩なのです。

7-2. 明日から始めるためのアクションプラン策定 ~まずは最初の一歩を踏み出そう~

自社の課題が少しでも見えてきたなら、次は行動です。「アクションプラン策定」と聞くと、大げさに聞こえるかもしれません。しかし、ここで大切なのは、完璧な計画を一気に立てることではなく、**「まずは最初の一歩を踏み出す」**ことです。

どこから始めればいいか分からないと感じるなら、最も重要だと感じた課題、あるいは最も取り組みやすそうな課題から、**「明日、具体的なアクションとして何をするか」**を一つだけ決めてみてください。

例えば、「コミュニケーションの質を高める」が課題だと感じたなら…

  • 「明日、部下の〇〇さんと1on1をやってみよう」と決める。(もしやり方が分からなければ、まずは「1on1のやり方」を調べてみるのが最初の一歩かもしれません。)
  • 「明日の朝礼で、特定の従業員の具体的な貢献内容を全体の前で称賛してみよう」と決める。
  • 「明日から、従業員とすれ違う時に『何か困っていることある?』と声をかける回数を増やしてみよう」と決める。

「心理的安全性」に課題を感じたなら…

  • 「明日、チームミーティングで、あえて自分自身の失敗談を話してみよう」と決める。
  • 「明日、部下が質問してきた時に、すぐに答えを教えずに『君はどう思う?』と問いかけてみよう」と決める。

「成長機会」が課題なら…

  • 「明日、キーとなる従業員一人と面談し、今後どんなことに挑戦したいかを聞いてみよう」と決める。
  • 「明日、オンラインで受けられる安価な研修を探してみよう」と決める。

このように、大きな目標に対する最初の一歩は、驚くほど小さな行動かもしれません。しかし、その小さな一歩が、組織を変える大きな波の始まりとなるのです。

重要なのは、**「考えて終わり」にせず、「行動に移す」**こと。そして、その小さな行動がもたらすであろう変化や、従業員からの反応をよく観察し、次の行動へと繋げていくことです。PDCAサイクルは、最初の一歩から始まります。

中小企業という環境は、大企業に比べて変化が早く、経営層や従業員同士の距離が近いという特性があります。これは、エンゲージメント向上に向けた取り組みを、形式ばらず、血の通った形で進めやすいという大きな強みになり得ます。従業員一人ひとりの顔が見える中小企業だからこそできる、温かみのある、しかし効果的なエンゲージメント施策が必ずあります。

未来は、待っているだけではやってきません。自社の未来、そこで働く大切な従業員の「働きがい」に満ちた未来は、まさに「今」、あなたの、そして皆さんの手で創り出すものです。

このブログシリーズが、あなたの会社が「従業員の働きがい」を羅針盤として、明るい未来へと航海するための一助となれば、筆者としてこれほど嬉しいことはありません。

さあ、難しく考えすぎず、まずは今日、あるいは明日、最初の一歩を踏み出しましょう。従業員の「働きがい」を高める旅は、きっとあなたの会社に、想像以上の活力と成果をもたらしてくれるはずです。

長いシリーズでしたが、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。あなたの会社が「働きがい」に満ち溢れる場所となることを心より応援しています。